「泰平の眠りを覚ます大客船」となるか(2)

アーケード

大量の中国人乗客を乗せた客船が到着する長崎。アーケード商店街には「熱烈歓迎」の中国語が並ぶ。

金丸:あとは日本人のような「間違ったクルーズ概念」がなかったことも、中国人の間でクルーズブームが爆発した背景にありますね

大浦:間違った概念といいますと?

金丸:先にも言いましたが、日本人はいまだに「クルーズとはセレブやシルバー世代の楽しみ」、「毎日男性はタキシード、女性はロングドレス着用」というクルーズイメージにとらわれているでしょう。確かにこれに近い船もありますよ。でも、今やクルーズ客船全体がカジュアル化しているんです。服装コードも思っているよりもずいぶん緩くなる傾向にありますよ。

出口:そして低価格傾向でしょう。世界のクルーズはどんどん安くなっている。中国の募集内容を見てさすがに驚いた。

金丸:コスタやRCIはカジュアル客船に分類されるんですが、両社とも10万トン超のメガシップを何隻も建造しています。その威容や内装を見ただけで「もう自分には縁のない、豪華客船の世界だ」ってあきらめてしまうのが日本人。でもね、実はトン数が大きくなればなるほど、カジュアルで低価格なクルーズができるんですよ。大人数を載せることができますからね。それを具現化しているのが、九州を中心に波状攻撃的に押し寄せては大金を落としてゆく中国人乗客です。

出口:彼らには豪華客船=畏怖の対象、ではないんです。かえって豪華だからこそ、自分がいつかは乗るべき船だと思っている。消費は、人生のステップアップの途上にある、一つの目安とでもいいますか。なので、懐具合を見て、そろそろ行ってもいいかな、という感覚になれば、あとは躊躇がない。自己責任の国ですから、消費にも度胸があります。

大浦:お金の遣い方とか、観念が違うのでしょうか。

出口:まず、金丸さんが言ったような「お決まりのクルーズイメージ」の呪縛が全くない。そもそも知らないんだから。私たちだって、歳がバレますが、子供の頃から「兼高かおる世界の旅」を見ていて、へえ、外国ってこんなふうになってるんだと思う。芥川隆行のナレーションが、多くの日本人の気持ちを代弁していました。でも、最後に航空会社のCMを見ると、縁遠い世界に思えて、やはり現実的ではなかった。でも、中国にはそういうものがあまり強くないんですね。

大浦:当たり前という前提そのものが、そもそも違うのですね。

出口:だから、2000年代後半に欧米の船社が中国市場に乗り込んできたときも、彼らはこれに対して恐れるどころか、むしろこれが自分たちの豊かさを表現できるものなんだ!と両手を挙げて歓迎した。そんな心理ではないでしょうか。彼らの自動車の買い方などを見ても、似たような傾向はあったといえばあったし。

大浦:カジュアル客船が低価格路線なのは分かりましたが、日本人向けと中国人向けでも乗船費用って違ってくるんですか。

出口:それはもう。バカらしくなるくらいですよ、この話をしだすと。でもね、それはまっとうな市場原理に基づいたものなんですから仕方ないところもある。つまり、中国人は大きな船を用意すればするほど、どんどん乗ってくる。まず、器が大きいから、スケールメリットが出てくる。
さらに市場を拡大するためにどんどんディスカウントをして、乗船者層をさらに拡大しようとした。それはどうも、メガサイズのクルーズ船が来る前からそういう情況があったようです。すると、そこまで裕福な層でなくてもクルーズに乗船するという下地ができる。これはある意味、船社が作っていった事業の中国展開モデルでもあります。船社としても、多少割引しても1800人乗りの客船がほぼ満席になるんだから、決して損はしない。

金丸:日本でこのやり方をしても失敗するだけですね。一度のクルーズで1800人も乗船する可能性があるのは盆とゴールデンウィーク、年末年始くらいなものでしょ。富裕層の数は限られてるし、長いあいだの間違ったクルーズイメージの呪縛から解放されていない日本人の「啓蒙」だけでも相当の手間がかかりますからね。

大浦:ということは、こうした外国船の日本発着のクルーズってないのでしょうか。

金丸:ないことはないです。2010年のゴールデンウィークにはRCIのレジェンド・オブ・ザ・シーズ(7万トン)が横浜発着の上海・済州島・釜山クルーズを実施。2回で3500人の乗客を集めるという、まさに船名のごとく「伝説」を作りました。私も乗りましたが、今年のゴールデンウィークにも横浜・神戸発着クルーズで1780人を集客しました。
コスタクルーズも博多発着の韓国・上海(または天津)クルーズが人気を博しています。さらに、来年は米国のプリンセスクルーズが「サン・プリンセス」(約8万トン)で日本発着クルーズをゴールデンウィークから7本実施することが決まっています。だから決して、日本市場もダメってわけじゃない。

大浦:それはだいたいいくらくらいですか。

金丸:レジェンドの場合、1週間で最低価格が5万9800円からという格安クルーズもあります。コスタの博多発着もだいたい同じくらいですし。だから日本人がもっと日本発着クルーズに乗れば、中国のようなディスカウントが進行するはずです。

出口:でも今回のボイジャーのようなメガシップは中国発着用であって、日本発着となると厳しいですね。いわばボイジャーは中国の「市場規模に合わせた船」として東アジアに配船されてきたと思います。ここ3~4年で確認できたビジネス&集客モデルを使って、こんどは大きい船で、さらに大きな市場をドカンと狙う。

金丸:しかも来年にはもう1隻、ボイジャーと同じ14万トンの船(マリナー・オブ・ザ・シーズ)をアジアに持ってきます。7万トンのレジェンドではもはや飽和状態。それなら14万トンを持ってこよう。これは当然の発想です。そして、メガシップ2隻でも中国市場では元が取れるからです。

大浦:そんな状態になってるんですね。知りませんでした。

出口:そして中国人が最も行きたい国の一つに日本が挙げられます。アメリカやヨーロッパを含めれば消去法かもしれませんけど、東南アジアや韓国とは渡航先としてのランクが違うんですね。
実際に行ってきた人達は中産階級以上の人達ですから、政府の歴史プロパガンダも何のそのです。むしろ、きれいに掃き清められた街並みなど、日本はなかなかいいぞ、という理性的な反応もあります。リピート希望も高い。あとは物欲、買い物ですよね。
この状況が続く限り、九州をはじめとした日本の港は、当面はメガシップの寄港地として定着すると思います。この円高でもこれだけの乗船客がいる。

金丸:そのボイジャーが7月9日に神戸に初寄港します。今年は4回寄港の予定です。中国人も九州ではなく、博多を凌駕する大都会・大阪でショッピングしたいですし、神戸から遠くない千年の古都・京都ともなれば、日本を代表する観光地であることは間違いない。
九州ばかりが宝船の恩恵を受けるのは黙ってられない、と神戸など本州の港も誘致に必死です。この神戸寄港は両者にとって極めてエキサイティングなものになると思われますので、私は見に行ってきますよ。

大浦:では、またそのあとに対談を設定しましょう。本日はありがとうございました。

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